テーマ㉛「リーダーの二面性」
リーダーシップを学ぶと必ず出てくる言葉が「リーダーの二面性」です。「情」と「理」。「委任」と「強制」。「指示命令」と「傾聴」。どちらかに偏ることなく、一人の人間が二面性を兼ね備えなければならない、というものです。私の経験からも尊敬できる経営者、リーダーの方はみな二面性を持っていました。「仕事に対して妥協を許さず、周囲を叱責することはあるが、飲みの席では愛情にあふれた声掛けを行い、愛嬌もある。」「ここぞというときには最前線に立って率先垂範し行動するが、部下を信頼し自分は口を出さないこともある。」優れたリーダーは見事なまでに二面性を持っています。
有名な理論でPM理論というものがあります。著名な社会心理学者の三隅二不二氏が1960年代に発表した概念で、リーダーシップをP(パフォーマンス)とM(メンテナンス)の二つの要素の複合と定義しました。P(パフォーマンス)とは単純に言えば組織の目標を達成し、成果を上げる素質です。M(メンテナンス)とはメンバーに愛情を注ぎチームワークを向上させる配慮です。優れたリーダーはPとM、どちらも備わっていなければならない、という考え方です。まさに、二面性。
しかしながら、「二面性を持て」と言われても非常に難しいのも事実です。取り繕い、表面上の厳しさと愛情を見せたところで、部下は鋭く見抜きます。「急に態度が変わったのは、どこかの研修で聞いてきたことか、本で読んだことの受け売りだろうな」と。それでは二面性は持って生まれた素質なのでしょうか。私は、二面性の正しい備え方を知り、実践していけば誰でも二面性を持つ優れたリーダーになることはできると考えます。今回はその手法を解説します。
「優しいだけでは成果は上がらず、厳しいだけでは人は従わない」
食品卸売業A社の営業部では、4月の新年度より高田主任は昇進しチームリーダーを任されました。もともと非常にストイックで個人の成績は抜群。その実績を認められ、中堅・若手社員6名を束ねるリーダー職に31歳で抜擢されました。本人も非常に気合が入っており、チームの目標達成は当たり前、前年を大きく上回る成果を上げようと気を吐いています。新年度の幹部会議での一コマです。所信表明を求められた高田リーダーは次のように述べました。「このたびはチームリーダーという大役を任され、非常に身が引き締まる想いです。徹底的に厳しくチーム運営を行うことで、前年を大きく上回る実績を上げていきます。」それを聞いていた社長は、次のように述べました。「前年を大きく上回る実績を期待しています。おそらく高田リーダーのことですから業績向上に対しては心配していません。しかしながら、6名の部下の成長を心から願い指導する、愛情も合わせ持ってください。組織を束ねるリーダーには厳しさと優しさの二面性が必要になってきます。」
【解説】
リーダーが二面性を持つためには、おさえるべきポイントと順序があります。それが次の通りです。
1.一面しかないリーダーは人の心を動かすことができない
中国戦国時代の有名な思想家である韓非子。権力を維持するためには、徹底的に「情」を排除し、「ルール(法)」のみを大切にする重要性を説きました。私も愛読していますが、その著書は政治家や経営者の間では必読書です。しかしながら、本人の最期は(所説ありますが)周囲の妬みや謀略により自死せざるを得ませんでした。人には感情がありますので、正論だけで人を動かすことはできないのです。逆に、優しさだけで、人の行動を促すこともできません。
2.早急に実績を上げ尊敬を集める
リーダーの言葉の説得力は内容の正しさよりも、その言葉を話す人自身が尊敬に値するか、信頼されているか、です。そのためにも、まずは実績を上げることに注力してください。特に新任リーダーは最初の90日で成果を出すこと。組織として成果を出せば部下を勇気づけチームの空気もよくなります。また、個人として成果を出せば周囲の尊敬を集めます。
3.人はギャップにより心を動かさせる
マネジメントやマーケティングで必須知識と言われる行動経済学で説かれるのがギャップの重要性です。普段優しく接していると、たまにある厳しさが際立ちます。厳しさ一辺倒だと、指導される部下は反発します。また、常に優しいだけでもその優しさに有難みを感じなくなります。
4.二面性の持ち方
①役割に徹する
「私は性格的に強く言えません。」「私は人に優しく接することができません」それでは成果は出ません。リーダーはプロフェッショナルとして、時に仮面をかぶり役割に徹する覚悟も必要です。
②心の底から部下の成長、成果を願っているか
部下が成長し、成果を上げることは素晴らしいこと。上司は部下と競争しても仕方ありません。成果を上げたときは喜んでください。
③厳しさ
言葉丁寧、内容正論。言いにくいこともバシッと言い切る。
④優しさ
本来の優しさとは、ただ言葉や態度を配慮するだけではなく、本当に部下の成長を願っているかどうか。
5.リーダーシップが変わらなければ組織は変わらない
部下と信頼関係を構築できていない上司、組織の成果を上げることができていない上司、それはすべてあなたに責任があります。組織を変革していくためには、上司自らがいままでのやり方に固執せずリーダーシップの在り方を更新していってください。
【ポイント】
リーダーには成果をあげ、部下に愛情を注ぐ二面性が必要である。