私に人生の目標などありません。1か月、半期の数字目標、1年後に目指すべき事業の形、3年以内の計画などはありますが、「人生で何を目指しているのですか?」と問われたところで「全く検討もつきません」と答えます。
私は研修の一コマで無記名で質問を募り、即答で回答を行います。新人、若手社員向けの研修では脅迫観念に囚われたかのごとく、「仕事で何を成し遂げたいかの夢を持てません。どのようにすればよいですか?」との質問を受けます。しかしいつも「別に夢など無理に持つ必要はないです。それよりも、目の前の仕事に全力を尽くした方がよいです。」と回答します。また、この様に移り変わりの激しい時代に固定化された将来の夢を持つことは危険とも感じます。
「私の夢は海外関連の業務を行うことです」
食品卸売業A社、人事課の中山課長は、10月の内定式後、6名の内定者たちと、一人ずつ面談をしました。その中で、ある内定者が次のようなことを口にしています。「私は学生時代、留学経験があり、英語が非常に得意です。将来的に海外関連の調達業務を行うことが夢で、是非、新人のうちから海外に関連する業務を行いたいです。」中山課長「それは素晴らしいね。もし、希望と違う配属になることがあったらどうする?」内定者「そうですね。悔しいです。私は夢を叶えたいと思い、この会社に入社しましたので。」中山課長「もちろん、将来の夢を持つことは大事なことです。しかしながら、会社では全て自分の希望通りに配属が決まらないことも多くあります。また、どのような業務でも将来に必ず役に立ちます。いまから、キャリアについての考え方を説明していきましょう。」
【解説】
キャリアには「山登り型」と「川下り型」が存在します。専門的に言うと、前者が「キャリアアンカー型」と呼ばれ、後者が「プランドハプンスタンス型」と称されます。「山登り型」は自身のキャリアの将来の夢、ゴールを定め、自らそれに必要な環境を求めていくこと。対して「川下り型」とは偶然与えられた環境で経験を重ねていき、キャリアが発展していくことです。
経営支援センターに入社して17年。全く仕事の出来ないダメ社員が、まだまだ不十分ではありますが、人前で研修を出来る人間となりました。振り返ってみると私は典型的な「川下り型」のキャリアです。様々な人間関係、厳しい指導、膨大な業務、様々な立場・働く場所を経験する中で、少しずつ仕事の幅が広がっていきました。いまだからこそ断言できます。「夢や目標など必要はない。川下り、いや、激流下りのキャリアこそが成長につながる」と。では、キャリアをどのようにとらえ、激流を下っていけば良いか。それが次の通りです。
1.30年後の夢よりも毎月の目標達成
一説によると、令和4年のいまの社会の移り変わりのスピードは30年前の数倍と言われます。30年後の夢を立てたところで、環境の変化に伴いその夢自体が陳腐化している可能性があります。それよりは目の前の仕事に集中し、毎月の目標達成を目指すことの方がよほど重要です。
2.変化対応力
変化対応とは、流行りに乗ることではありません。逆に変化に動じないことであり、「礼儀礼節」、「量からしか質は生まれない」などの基本を徹底することです。
3.与えられた出来事は全て将来の糧(かて)となる
会社は矛盾の宝庫です。外から見れば素晴らしい企業でも理不尽と思える環境、納得できない出来事は存在します。「こんな会社だから自分が活躍できない」と思うか、「自分がこの矛盾を解決しなければならない」と思い行動をするか、で全く成長の度合いが異なります。全ては自身がどう捉えるか、原因自分論に立ち返ること。
4.いまの環境でどこに行っても通用するスキルを身につける
私たちは生活をしていかなければなりませんので、人生には次の選択肢しかありません。①「いまの会社で頑張る」②「転職する」③「起業する」の3つです。
もし、いまの会社から「逃げ」の理由で転職すれば、転職を繰り返すでしょう。そして、お客様がゼロの状態から起業をすることはとてつもない人間力と営業力が必要となります。大事なことはいま所属している会社でどこに行っても、どのような環境であっても通用するスキルを身につけること、それが自分のキャリアの幅を広げます。
5.ストレスマネジメント
激流を下ることは多大なストレスが降りかかってきます。ストレスマネジメントとは、ストレスと上手くつきあうこと。「ツラい」ではなく、「勉強になる」。「厳しい」ではなく「熱心」。など物事を肯定的にとらえるリフレーミングの技術が非常に有効。
6.激流を下る中で、おぼろげながら目標が見えてくる
激流を下るうちに、知識・経験が増え、おぼろげながら自分のやりたい仕事が見えてきます。しかしながらこれはまだイメージに過ぎません。イメージを具体化するために、数値目標を設定する必要があります。1年後に1,000万円の利益。顧客数100、など数字を加えることで具体化していきます。
中山課長の話をきいた内定者は、将来の夢・理想は持ちながらもまずは仕事で様々な経験をすることの重要性が理解できました。入社後の配属先がどのような形になっても意欲的に取り組むことを宣言しました。
【ポイント】
キャリアとは川を下る中で築かれていくもの。様々な経験を積むことで少しずつ可能性が広がっていく。