コロナ禍以前の多くの企業の課題が「採用難」でした。新卒、中途、ともに募集をしても採用できず、人手不足倒産も世間を賑わせていました。緊急事態宣言下で鳴りを潜めましたが、経済活動の回復に伴い、この課題は再燃しています。採用難は「新人・若手の早期離職」と表裏一体です。なぜなら、求人が増えるに従い、「いまの会社を辞めても転職先はいくらでもある」と考え、不満があれば即、退職につながる若手も増えるからです。
厚生労働者が毎年秋に出している「新規学卒者の離職状況」の最新のデータによると、3年以内の離職率が31.2%です。これは10年間の統計を見てもほぼ、変化はありません。早期退職者自体が増えているというわけではなく、苦労して採用した若手が早期に離職することが大きな痛手となっているのです。事実、この春、複数の企業様より弊社に対し、若手社員の離職防止支援の相談がありました。多くの企業の課題になっているのでしょう。
「この仕事を続けていく自信がありません。退職したいです。」
食品卸売業A社の営業1課、入社2年目の田中君。仕事に非常に真面目に取り組んでいるように見え、上司・先輩も今後の活躍に期待していました。しかし、6月のある日、上司である山田課長に突然相談がありました。「課長、実は退職を考えています・・・」山田課長は言います。「なるほど、どうしてそのように考えたのかな?」田中君の回答は的を射ないもの。そこで山田課長は、田中君のメンターに状況をヒアリングしました。すると、田中君に対するフォローの現状は色々と問題があることがわかりました。
【解説】
「石の上にも3年。気合と根性で頑張れ」そのような昔ながらの若手指導を行っている企業は、「根性が無く」辞めたのではなく、優秀な新人・若手から順番に「会社に愛想をつかせ」辞めているという現実を直視できていません。まさに原因他人論。
では、育成のミスマッチを防ぎ、新人・若手が定着・成長していくための取組みはどのようなものがあるでしょうか。それが次の通りです。もちろん、早期離職が必ずしも全て「悪」というわけではありません。企業の考え方についていけない、能力が伴わない社員が退職を選ぶのはやむをえません。ここでは、「期待していた」若手の離職を防ぐ取組みをご紹介します。
1.声がけを密に行う
新入社員に対するアンケートの上司・先輩に対する期待で不動の一位はここ数年変わりません。「しっかりと声がけをして欲しい」です。「俺の背中を見て育て」、の声がけをしない育成ではすぐにヤル気を失っていきます。
2.まずはコーチングより徹底的なティーチング
コーチングとは答えがその部下の中にある、という前提のもと、質問を投げかけ考えさせる育成手法。一方、ティーチングとは、手順を細かく教え、チェックしていく育成手法。新人・若手に質問を投げかけたところで、答えなどありません。ティーチングにより基本をマスターした後でコーチングの効果は発揮されていきます。
3.他者比較は×、継続した自身の成長を評価
1988年生まれ以降の世代(ゆとり、脱ゆとり、さとり世代)はそれ以前と比較し、学習指導要綱で大きな評価軸の転換がありました。それが、「相対評価」から「絶対評価」への変更です。人と比べ評価するのではなく、決められた目標や基準への到達度を評価するというものですつまり、「トップを目指せ!」や「○○に勝ちたいだろ!」という動機づけは嫌悪感さえ抱く可能性があるのです。しかし、会社は競争社会であるのも事実。若手の価値観を理解した上で競争意識をどう持たせるか、が上司には問われます。
4.何をやれば良いか、どうやれば良いか、ゴールを明確にする
ただの作業を与えるのでなく、なぜこの業務を行わなければならないか、目的を伝えてください。そして、上司・先輩・新人ともに半年後や1年後の目標を共有しておくことも重要となります。
5.他者貢献することで自己肯定感を持ってもらう
多くの若手研修を行い会話を重ねる中で理解できたのですが、彼ら・彼女たちは決して意欲が無いわけではありません。「本当に自分は組織の中で役に立っているのか」不安に感じている若手が非常に多いのです。上司としてこの不安を無くし、自己肯定感を持ってもらうためにも、①チームの中での役割を与え、②感謝を口に出す、ことが必要不可欠です。
6.ワークライフバランス
「24時間働きますか?」の時代は終了しました。しかし、仕事も満足にできない若手を甘やかせろと言っているわけではありません。メリハリが重要なのです。本当のワークライフバランスとは、決められた時間の中で、最大の成果・結果を生み出すこと。残業ではなく結果で稼ぐ、その考えにシフトさせる必要があります。
7.考え方「原因自分論」
本コラムの第1回テーマでもある「原因自分論」は離職防止においても重要なキーワードです。「会社が悪い、上司が悪い」、という理由で離職をしてもまた離職をする可能性は高いです。「上司が悪い」のであれば「上司と議論をする」、そのような意気込みが必要なことを日頃から指導するべきです。
山田課長は田中君に対するフォローを全面的に見直したところ、少しずつ田中君のストレスも軽減されてきたようです。「課長、色々とご配慮いただきありがとうございます。」
【ポイント】
期待する新人・若手の早期離職は企業として大きな損失である。「いま」の若手社員の傾向をつかみ早急に対策を打て。