■国策倒産回避の反動で多くの企業が潰れる
2020年度、2021年度(上期)の倒産件数が戦後最少となった。コロナ禍での様々な補助金や支払い猶予の影響である。2021年10月の日本の失業率は2.7%。3%を切ると完全雇用に近い。これは世界で最も低い水準である。ちなみにアメリカは4.6%、フランスにいたっては7.6%だ。しかし日本より平均所得は格段に高い。先進国では失業率が悪化しても所得は伸びる。それは競争力のある企業が生き残るからだ。企業は生き物。国が関与しすぎると生態系が崩れ、後々問題となる。それが2022年。猶予された支払いも始まり、補助金もカットされる。人工呼吸器を外された企業が一気に淘汰される。競争があるから進歩があるのだ。そこから技術革新が起きる。競争を避ける国家、企業に豊かさはやってこない。
■中小企業が歩む道
テレワーク、ワーケーションとコロナ禍で働き方が多様化した。しかし、中小企業でテレワークは百害あって一利無しである。チームの一体感は崩れ、リーダーによるマネジメントも機能しない。緊張感のカケラもなく、生産性は一気に低下する。昭和のやり方は古いと軽んじる者も多い。中小企業の経営スタイルは理念、情熱、やり遂げる、人間力、努力、強い意思、チームワーク、実践力、そのようなキーワードが絶対に必要となる。事実、業績絶好調の中小企業はそのまんまの企業体質なのだ。もちろん、人間性だけでは勝てない。マジメで働くだけでも勝てない。そこに、「スピーディーな対応」「安定した品質」「徹底したアフターフォロー」と付加価値を付け加えることである。原点回帰こそが変化に対応でき、中小企業の進む道なのだ。
■2022年に打つべき手はこれだ
激動する2022年に打つべき具体策は次の9点。
1.急激なコスト上昇を価格転嫁せよ
過去に例をみない状況だ。コスト上昇は粗利益率改善の絶好のチャンス。しかし、営業は間違いなく弱気になる。「値上げをすると取引が停止します」「ライバルに取られてしまいます」ベテランにそう言った発言が多い。覚悟を決めよ。値上げが通らないなら、その顧客を切っても良い、と。いまの状況はそれほどひっぱくしている。
2.メーカー、問屋、小売と理念が一致した先との取引
コロナで多くのことを学んだ。材料調達が困難をきわめる中、本当に力になってくれる取引先は「安定供給」を決して崩すことはなかった。もちろん仕入価格は上がる。しかし、物(ブツ)がないと商売は成り立たない。これからは規模拡大が全てではない。メーカー、問屋、小売がしっかり利益を取り、収益力高い企業を目指すべき。価格第一主義の企業と取引しても全くメリットはない。
3.売る、作る、運ぶの品質向上を目指せ
泥臭く圧倒的な活動量と提案ができる営業。短納期でノークレーム。しかも、品質も抜群な工場。遅配、誤配のないスムーズな物流。これなら高くても売れる。安売りや低粗利益率におちいるのはそのレベルが極めて低いことが原因なのだ。同時に部門垣根(セクショナリズム)が存在し、コミュニケーションが図られていないケースも目立つ。課題のたらい回し状態。敵が身内にいて業績が向上するわけがない。
4.海外調達、仕入れのリスク対策を
感染症の流行は以前より世界各地で頻繁に起きていた。近年ではSARS(サーズ)、MERS(マーズ)がそうだ。その他にも温暖化による大雨、ハリケーン、大洪水。50年に一度の大雨と報道するが、いまや毎年のように起きている。テロの脅威も忘れてはいけない。つまり海外調達、仕入れは人件費高騰、コンテナ不足もあり、年々、リスクが高くなっているのだ。アパレル業界などは国内回帰が鮮明だ。品質、輸送コスト、欠品ロスを考えたら国内でも採算が合う業界が増えてきた。
5.仕入れ開発、商品開発を積極的に推進せよ
デジタル化によって情報が拡散する時代。流行っている商品も一気に陳腐化する。この2〜3年あれだけ流行った台湾タピオカはどこへやら。既存の売れ筋商品もいずれ頭打ちがくる。売れている時にこそ、次の商品開発を積極的に行わなければいけない。新商品の売上比率が高い企業は開発型企業として市場から認知され高収益となる。
6.仕事の基本ができたデジタル化は生産性が向上する
デジタル化は仕事のスピード、精度を格段に上げる。しかし、仕事の基本ができていなければ考えない人間になる可能性も秘めている。例えば見積もり作成。様々なソフトがありインプットするだけで自動的に原価、粗利益、粗利益率がはじき出される。しかしながら顧客との価格交渉において、デジタル頼みの人間はその場での判断がすこぶる鈍い。スマホの普及で本来覚えるべき漢字が書けないのと同様だ。
7.SDGSは、積極的取り組みを。しかし利益にはならぬ
日本は、環境問題にヨーロッパほど関心がない。SDGSと熱く語っても結局、価格は?となる。ドイツは風力や太陽光を活用し、自然エネルギーの比率が上昇した。その結果、一般家庭の電気代は2倍近くに高騰。日本では不可能。SDGSは取り組んでも当面利益貢献することはない。ただし準備は怠るな。
8.採用と教育は優先順位の高い投資である
業績低迷企業は平均年齢が高く、人事異動も少ない。組織に緊張感もなく完全にマンネリ状態。老人会の集まりに見える。業績が悪いから採用できないのではなく、採用に消極的だから業績が上がらないのだ。人材育成においても国際的に突出して低いのが日本企業。一人当たりの研修費は、アメリカの10分の1。グローバル時代、これで競争に勝てるわけがない。「水を与えるより、井戸の掘り方をおしえよ」という言葉がある。いまの日本はその考え方に逆行している。長期的な目で見ると、社員の意識改革、技術習得に投資した方が生産性は間違いなく向上する。
9.幹部は会社と部下を成長させられる人であれ
業績を上げるだけでは三流。同時に人を育ててこそ一流の幹部。クライアント先の幹部に対し「ダメ出し」を言い放つことも多い。「いきすぎたイクメンで幹部が務まるか?」 「自分に甘くて数字が上がるわけがない」「言っていることとやっていることが違う」「判断ができないのは現場を知らず口先介入だからだ」心が痛む幹部もいるだろう。
■幹部は毎日悲観、業績楽観の哲学を持て
これから先も、景気の回復は見込めない。そして平時もなく、常に有事の状態。世の中、何が起きてもおかしくない不確定な時代となった。それだけに幹部の役割は今までになく大きい。幹部の思考と行動がそのまま企業の決算書となる。常に危機感を持ち、様々な角度からリスクを想定し、綿密な計画を打ち立てる。行動は素早く、軌道修正も朝礼暮改だ。毎日の悲観、つまり危機感が業績の安定を創るのだ。
(経営支援センター 国吉拡)