テーマ㉚「地位が人をつくる~上司こそが早くそのポジションを譲り新たなステージにチャレンジせよ~」
中小企業の中堅・若手社員から、このような悩みをよく聞きます。「ポジションの空きが無く、出世の機会が限られている。どんなに頑張っても上司が定年退職しない限り役職が上がることはない。」ヤル気ある若手社員も、将来に期待を持つことができなければ退職に至ります。メディアは、管理職になりたがらない若手社員が増えていると言います。年間200回以上の研修講師を行う立場からすると、それは必ずしも正しくはありません。若手社員の中にも、いまの職場で責任ある立場につきたいという人材は数多く存在します。
では、企業としてこの事態を防ぐためにはどのようにすればよいでしょうか。ポジションをつくるため、大企業であれば出世競争のレールをはずれた人材(ベテラン)の受け皿として関連会社への出向、組織を持たない名誉職的な役職を与える、などの対策が可能です。しかしながら中小企業は組織の体力に限界があるため、簡単にそのようなことはできません。また、結果をあげた中堅・若手社員にただ、役職を付与するのみでは、仕事の中身が変わらず責任も生じませんので、昇進の喜びは数日で消滅します。非常に難しい問題ですが、私が考える解決策は、「リーダー自身がいまの地位・仕事に固執せず、新しいチャレンジをする」ことに尽きます。また、会社も組織活性化のためにもリーダーには道なき道をつくっていく、という課題を与えなければなりません。
2014年、私はゼロから新規事業の立ち上げ(沖縄におけるセミナービジネス)を責任者として任されました。当初は収益化に苦しみましたが、営業活動、サービスの改善、ほか様々な取り組みを行うことで、立上げから5年ほどで毎月安定的な利益を産み出すビジネスへと成長させました。しかし、現在、私はこの事業にはほぼ関わっていません。拠点を東京に移し、顧客の売上向上のための研修・コンサルティングを本業としています。自分が立ち上げた事業ですので、愛着はありましたが、①安定している事業以外の売上の柱をつくる必要性、②後に続くもの、及び会社の成長のため、ポストを空ける必要性を感じ、立場を手放しました。
前号で、成長のための「失敗の重要性」を解説しましたが、もう一つ重要な成長のステージがあります。それが、実力に合わずとも役職・仕事を与えることで、立場に足る自分になろうとする過程です。私も新規事業の立ち上げを任された際は明らかに実力不足でしたが、収益化を目指す過程で成長を実感しました。
「働かないおじさん」問題
食品卸売業A社では、総務の上田課長の処遇について、人事部の間で議論が繰り広げられています。入社30年、出世は比較的順調で30代後半で課長となりました。管理職になるまでは模範となる働きぶりだったのですが、ここ10年は停滞しています。若手社員の間の噂が人事の耳にも入ってきました。「私たちより給与が高いにも関わらず、あの働きぶりはよくない。ネットで言われる、『働かないおじさん』だよね。確かに上田課長しかできない仕事はあるけど、会社として対応して欲しい。」早急に対応が必要と考えた人事部の山田課長は上田課長との面談を設定しました。
【解説】
「地位が人をつくる」ことは間違いありませんが、そのためには、おさえるべきポイントと順序があります。
1.若手社員に「目の前のチャンスを逃してはいけない」と伝える
ある日突然、「あなたは課長になりなさい」や「新規事業を立ち上げなさい」などと言われたとき、「私では難しいです」と答えるか「わかりました。頑張ります」と答えるかで、その後のキャリアは大きく変わっていきます。平均年齢の上がっている日本の職場では上のポジションは埋まっています。若手にとってこの千載一遇のチャンスを逃してしまうと後はないのです。
2.地位が人をつくる、とは?
責任ある役職を任されたときや、難しいプロジェクトを任されたとき、当初は見合う能力・実力は無いかもしれません。しかし、一日でも早くその立場に足る自分になろうと努力する過程で人間は大きく成長します。いまの能力・実力で十分達成できる仕事で成長をすることはありません。背伸びしなければ達成できない目標設定こそが成長につながります。
3.いまの役職・仕事に固執する上司
部下・若手にポジションを譲ることは重要ですが、上司もいまの役職・仕事に固執します。固執の理由は次の通りです。
①現状に満足している
慣れた仕事環境でそこそこの待遇を得られる現状に満足している。
②チャレンジし、失敗するのが怖い、自信がない
チャレンジに自信なく、失敗するのは致命的と考えている。
③上司としての立場を守りたい
部下に手柄を取られたくない。自分より成果をあげてほしくない。
④この仕事は自分しかできないと考えている
自分だからこの仕事をこなせていると考えている。
上司がいまの仕事に固執するのは、属人化を産み、部下の成長の機会を奪います。時には厳しく、また動機づけを行い、いまの仕事に固執させないようにする必要があります。
4.上司自身が次のステージにチャレンジする
結局のところ、役職が上がれば上がるほど、チャレンジする環境を提供することこそが組織の健全な発展につながります。「若いときこそ急げ」も大事ですが、「ベテランこそ急げ」。
山田課長は上田課長との面談の中で、現状に対し冷静にコメントを述べました。また、ノウハウを持ったベテランだからこそ、新しい取り組みを行い会社に貢献して欲しいと伝えました。
【ポイント】
上司が新しいチャレンジを行うことで、下にポジションを譲ろう。