テーマ㉕「ボスマネジメント」
「ボスマネジメント」とは文字通り、ボスをマネジメントすること、つまり部下側が自身の仕事の円滑化、目標達成のために上司を動かすスキルのことです。法人営業で「キーマン」に営業をかけることは成果をあげるための定石です。この「キーマン」に共通する特徴が一つあります。それは経営陣や上司と関係性が良好で、社内での発言権があるということです。つまりボスマネジメントに長けているのです。上司を説得することも厭い(いとい)ません。逆に、いくら実力があろうとも、一匹オオカミで、上司を動かすことができない担当者に営業をかけても、全く契約は決まりません。今回は、上司を動かす「ボスマネジメント」について解説していきます。
「こんな上司のもとで仕事はできません!!」
食品卸売業A社営業部での一コマです。営業一課の鈴木係長は高田主任に対する指導に手を焼いています。高田主任は毎年目標達成、成績優秀。しかしながら、いわゆる「くせ者」部下で、上司に対しても「それは間違っていると思います!」と反発を繰り返します。実力はあるのですが、お世辞にも社内での立ち回りが上手いとは言えません。次第にチームとして取り組むプロジェクトからも担当を外され、孤立化していきました。高田主任は、山田課長に相談します。「あんな係長のもと、仕事などできません。課長から指導してもらえますか?」山田課長は説明します。「確かに高田君の言っていることも理解できます。しかしながら、仕事を円滑に進めるためにもボスマネジメントのスキルを身につけることも必要です。」
【解説】
「ボスマネジメント」はただ上司にこびへつらうことではありません。仕事で成果をあげるために上司を巻き込みパートナーシップを構築することです。欧米では、仕事を進める上で重要な要素として「ボスマネジメント」を修得することが求められているほどです。
1.上司を変え(代え)ることはできない
残念ながら、理想通りの上司に巡り合うことなどありません。会社は矛盾の宝庫ですので、上に立つものが常に優秀とも限りません。①高圧的で口うるさい、②責任をとらない、③現場に丸投げで指示命令がない、④ちゃぶ台返し、⑤部下に興味を持たない、など、世の中には多くのダメ上司が存在します。しかしながら、「上司がダメだからオレは仕事が上手くいかない」などと愚痴文句をこぼしたところで事態は改善しません。また、どんなに不満を抱えたとしても、上司の不祥事等が無い限り、上司を代える人事異動の希望は通りません。また、上司の性格や態度を変えることも非常に困難です。どのような上司であっても、人間関係を築き、自身の仕事をし易くする方が余程理に適っているのです。
2.信頼関係を構築する
人間は感情の動物です。正論や実績も重要ですが、上司の感情に訴え「可愛がられる」ことは更に重要であり、仕事のやり易さにつながります。それこそが信頼関係の構築です。信頼関係の構築のポイントは次の通りです。
①自己開示
仕事のミスや自身のプライベートも恥じずにさらけ出す。
②接触回数(報連相の頻度とスピード)
タイムリーに報告し、小さなことでも相談する。上司との接触回数をいかにふやしていくか。
③指示命令を受けるときの態度
メモを取る。復唱する。目をしっかりと見つめうなずく。
④自分の意見を発信する
「私はA案が良いと思います」時には自分の意見を発信する。
⑤感謝の言葉を述べる
褒められるより嬉しいのは感謝。「助かります。ありがとうございます。」の言葉は口に出す。
3.上司のタイプを知る
上司のタイプも様々です。上司の好みに合わせた接し方も非常に有効。代表的な上司のタイプを紹介します。
①マイクロマネジメント型
細かな一つひとつの行動まで管理をし、指示・チェックを行う。
②モチベーター型
部下のモチベーション、感情を重んじる。
③問題解決型
問題解決こそが上司の仕事と考え、大局を見ることが出来ない。
④印鑑押し型
主な業務は決裁の承認。実行が伴わず判断するのみ。
⑤実務大好き型
部下に任せられない。自分がやった方が早い。
⑥友だち型
明るく、楽しい仲良しクラブ。厳しさは皆無。
⑦手柄は俺のもの型
部下の実績でさえ、自分の指導の賜物と考えている。
4.実績を上げる
日ごろの仕事をボスマネジメントに振りすぎることは本末転倒です。あくまでも自身の目標達成こそが本業であり、実績が伴わないボスマネジメントはただのゴマすりに過ぎません。最終的には、上司を自身の仕事を成功に導くための資源(リソース)と考え、上手く活用することが求められます。 高田主任は鈴木係長との関係性を見直し、行動を改めていきました。すると少しずつではありますが、仕事のやり易さを感じ始めました。
【ポイント】
上司をうまく活用することで、自身の仕事の幅は広がり、目標達成への近道となる