テーマ㉑「風通しの良さと仲良しクラブは違う」
ある会社で全社員面談をする機会があり、多くの方が「組織の風通しの悪さ」を嘆いていました。そこで、「風通しが良い組織とはどのような組織ですか?」と問いかけたところ、「上司・部下の仲が良く、居心地の良い組織です」との回答。ややもすると素晴らしい環境のように思えますが、大きな落とし穴があります。それが「風通しの良さ」と「仲良しクラブ」の混同です。「風通しの良さ」とは、議論は自由闊達に繰り広げられますが、結果に対する責任が求められ、ある意味シビアな環境です。半面、「仲良しクラブ」には責任は生じず、利益へのこだわりもありません。頑張らなくても得られる報酬が変わらず、モチベーションも低い組織とも言えます。今回は経営における本物の「風通しの良さ」の意味を解説します。
「うちの会社は風通しが悪い・・・」
食品卸売業A社人事課の中山課長は、定期的に若手社員と面談を行い、社内の状況をヒアリングしています。その中で、「うちの会社は本当に風通しが悪いです。もっと上司と部下が仲良くなれば良い会社になると思います」という意見を複数名より受けました。中山課長はその意見に対し毎回、本物の「風通しの良さ」とはどういうものなのかを丁寧に解説しています。
【解説】
1.心理的安全性
「心理的安全性」という言葉をよく耳にします。この言葉はハーバード大学のエドモンドソン教授が提唱した概念で、「チーム内の対人関係で、リスクをとったとしても安心できる、という共通の思いが存在する」と直訳されます。分かりやすく言えば「チームのメンバーにどのような意見を述べても拒絶されることがない」状態です。2016年にGoogle社が自社の生産性の高いチームに対する研究結果を発表し、その中でも「心理的安全性」の重要性に言及されていました。経営における「風通しの良さ」と「心理的安全性」はほぼ同義です。それではなぜ「風通しの良さ」が組織に重要なのでしょうか。その理由は3つです。
①変化の激しい時代、現場にしか答えは無い
ある調査によると、「ひと昔前とは何年前ですか?」との問いに対して半数以上の方が3~5年前と回答しました。つまり、結果を残し管理職になっていった上司の過去の体験も、「ひと昔前、もしくは大昔」の経験になっているのです。自分の経験に基づいた指導よりも、現場の意見を常に拾い上げていく。変化の激しい、いまはこのような指導が求められます。
②挑戦する風土
「このようなことを言うと、怒られるのではないか」、「この行動は許されないだろう」とメンバーが躊躇(ちゅうちょ)し、忖度(そんたく)してしまう風土では、挑戦が生まれません。トライ&エラーを重ねることで個人・組織の成長が加速していきます。
③多様性から様々な発想が生まれる
「想いを一つに」、「考え方を同じにする」は残念ながら不可能です。なぜなら、以前のようにほとんどの人がテレビ・新聞から情報を得ていた時代ではなく、個人の価値観・趣向が細分化しているからです。考え方の違いを認めた上で、目標達成のために様々なアイディアを出していくことが利益につながっていきます。
2.風通しの良い組織をつくるために必要な条件
それでは風通しの良い組織をつくるために必要な条件は何でしょうか。それが下記の4点です。
①リーダー自身の意識変革
まずはリーダー自身が変革することです。トップが「風通しの良さこそが組織を成長させる」と認識し、自己の行動を改めていくこと。そして、メンバーに対し、「このような組織にしたい」と想いを発信していくことが求められます。
②信頼関係
苦手・不得意・失敗も全て赤裸々(せきらら)に自己開示をすること。上司と部下が定期的に面談を行い、接触回数をふやしていくこと。相手の話しに対しては傾聴を行うこと。以前のコラムでも述べている、信頼関係を築く取組みを一つずつ実践してください。
③発言・挑戦を許す環境
「そんなの無理じゃない?」「勝手なことを言うな!」頭ごなしに否定をすると、発言ができなくなってしまいます。お互いが言いたいことを言いながらも相手を尊重した議論をすることが求められます。
④結果に対しては厳しくルール順守
自由に発言、行動が認められるということは同時に結果に対して責任を負うことも意味します。事前に目標達成できなければ昇給もないということがルールとしてあるのであれば昇給は無し。
3.本物の「風通しの良さ」は組織を好転させる
繰り返しとなりますが、本物の「風通しの良さ」は「仲良しクラブ」とは全く異なります。メンバーが共通のゴール(利益向上、目標達成)の重要性を理解し、上司・部下関係なくリスクを恐れず議論を繰り返すことで顧客に対する価値を提供することができるようになるのです。
中山課長の話しを聞いた若手社員たちは、「風通しの良い組織」と仲良しクラブ」の違いを理解し、次第に組織に対する不平不満を口にすることをやめていきました。
【ポイント】
変化の激しい時代には、役職・立場を超えた本音の議論こそが、利益を産み出していく。