私の仕事人生で最も成長実感があったのは仕事を任された時です。沖縄県内で新規研修事業の立ち上げを任され、軌道に乗せようと悪戦苦闘していた時は責任をひしひしと感じ仕事をこなしました。部下に仕事を任せないことは部下の成長を阻害し、組織としての生産性を低下させます。また、いつまでもいまの仕事に固執することで、自身のステップアップもできません。デメリットを挙げれば数限りないほどです。しかしながら、多くの上司が様々な理由から部下に仕事を任せず、いまの仕事を囲い込んでいます。今回は仕事の「任せ方」について解説をしていきます。
私しかできません!
食品卸売業A社、営業1課の鈴木係長は責任感のカタマリです。顧客からの信頼も厚く、得意先への対応も非常にマメです。特に、5年近く担当している得意先B社は「自分だから取引を拡大できている」との自負があります。3月のある日、来年度の得意先の担当割り振りについて山田課長と打ち合わせしていました。その席で山田課長が言います。「鈴木係長、担当している大口取引先のB社だけど、高田主任に引き継いでもらおうと思う。彼も4年目だから重要顧客を担当した方が成長につながると思って。」鈴木係長「B社ですか?あそこは私だから取引が続いているんですよ。担当変更となると売上に響くと思います。」山田課長「確かにそれはあるかもしれない。しかし、鈴木係長のステップアップのためにも、そして高田主任の成長のためにも、担当を彼に任せて欲しいと思います。」鈴木係長「そうですか・・・」そして山田課長は仕事を任せることが組織、個人にとってなぜ重要なのかを鈴木係長に説明しました。
【解説】
上司はなぜ部下に仕事を任せることができないか、それは大きく5つの理由があります。
①自分でやった方が早い
②部下の失敗が怖い
③部下に頼める仕事がない
④手柄を自分のものにしたい
⑤そもそもどのように任せればよいかが分からない
しかしながら、この理由の多くは上司の先入観によるものです。任せるリスクと任せるメリットがあるのは事実です。では、どのようにして上手く部下に仕事を任せ、成長につなげていけばよいか、それが次の10点です。
1.経営視点で見る
上司は部下よりも給与が高い。給与の高い人間が難易度の低い仕事を行うことは経営的損失である。上司しかできない仕事や、顧客から直接指名されている仕事は任せることに不向き。しかし、実際は部下でも対応可能であるにも関わらず、自分しかできないと上司
が勘違いしているケースも多い。
2.信頼関係
何を言うかより誰が言うか。この人の与える仕事だから素直にやってみよう、と思わせるのが信頼関係。信頼関係が構築されていない段階で任せようとしても部下は面倒くさいと感じるだけ。
3.部下の得意、不得意を見極める
この仕事は任せて上手くいくか。この仕事は失敗する可能性が高いか。部下をじっくり観察し、性格、適性、スキルを見極める。
4.ルーティーン化している仕事
一通りの手順が明確になり習慣化された仕事は絶好の任せるべきタイミング。失敗の可能性が低くなっている。ルーティーン化した仕事は早く部下に任せるべき。
5.育成につながる仕事(考えさせる仕事)
一から十まで細かくやり方を説明せず、自分でどのようにすれば上手くいくかを考え、実行させる。
6.120%の力を発揮すればできる仕事
慣れた業務(コンフォートゾーン)で人は成長しない。120%の力を出せばできる環境・業務(ラーニングゾーン)で人は成長する。※ノエル・M・ティシー教授が提唱する「能力開発の概念」
7.「この仕事は任せる」と口に出す
仕事を「任せる」と「振る」は異なる。仕事を「振る」と部下に責任感は産まれない。やっかいな仕事だから自分に押し付けたのだ、という考えを持つ場合もある。
8.「何かあったら相談して」ではなく決まったタイミングで確認
何か問題が発生しても部下から自発的に相談があることは無い。1日に1回、ボリュームのある仕事であれば3日に1回の進ちょく状況の確認を定例化する。
9.口を出しすぎない
心配だからといって口を出しすぎるのは部下の考える力を奪う。そして上司の顔色ばかりをうかがうようになる。自分と進め方や手順が異なっても、時には眼をつぶり黙って見守る我慢も必要。
10.失敗を認める
任せられて失敗することはあたり前。失敗を非難するのではなく、何が原因だったのかを共に考え、次は失敗しないように導いていく。
山田課長の説明を聞き納得した鈴木係長は、B社の担当を快く高田主任に任せました。そして、自分も顧客の対応業務だけではなく、将来の管理職として必要なスキルを身につけるべく新たな業務にチャレンジすることとしました。
【ポイント】
仕事を任せることは会社の発展、上司自身の成長、部下の成長につながる。上司はいま抱えている仕事を早く手離し、次のステップに足を踏み出せ。