◆目を疑う光景、退職代行業者の現実
先日、渋谷の街なかを歩いていたところ、眼を疑う光景が飛び込んできました。大音量で「退職代行〇〇〇〇~」と歌を流しながら大きな広告を掲げ走るトラックです。ニュースやSNSでも取り上げられていましたが、現場を目の当たりにすると、衝撃はなおさらのことでした。確かに、退職代行業は、法的にグレーな事業です。しかしながら、弊社のご支援先の企業様でも退職代行業者を使って退職を申し出る事例が昨年より複数発生しています。この退職代行業が浸透していることは間違いありません。
◆若手・中堅社員が簡単に離職する
先に紹介した退職代行業者を使う、使わないに関わらず、いま、若手・中堅社員がいとも簡単に離職する事例が増えています。厚生労働省が毎年秋に発表している「新規学卒者の離職状況」のデータによると、この3年は毎年、前年比2~3%ずつ離職率が上昇しています。様ざまな要因が考えられますが、昨今の急激な人出不足が背景にあると思われます。中小企業はどの企業も人出不足、採用難です。また、大手企業を中心に、新卒・若手の採用時の給与は大幅に引き上げられています。会社を退職しても、中堅・若手社員にとって条件の良い転職先がいくらでも存在するのです。採用難と離職は表裏一体です。求人を出しても全く応募者が来ない、と同時に社員の離職も相次ぐと、人出不足倒産に陥る可能性もあります。もちろん意欲・能力に欠ける人財を引き留める必要はありませんが、期待し、手をかけて育てている若手・中堅社員の離職は防ぐ必要があります。
◆離職を防ぎ、意欲を高める人事制度の構築
離職を防ぐ有効な手段が「人事制度の構築、見直し」です。少なくとも社員数が50名前後になると体系立った人事制度の構築は必須です。また、すでに人事制度が存在する企業も、時代や法律に即さない制度になっている可能性がありますので、見直しの必要があります。人事制度を構築することは、既存社員の不平不満を軽減し、モチベーション向上につながります。全ての不満を解決することはできませんが、「制度を整え会社をよくしていこう、頑張れば会社は待遇に反映させる」というその姿勢が中堅・若手社員のモチベーションに良い影響を与えるのです。いま、人事・給与に関して次のような課題を抱えている組織は是非、人事制度・給与体系の見直しを検討すべきです。
①評価基準が不明確で、評価者による判断のばらつきが大きい
②等級・職位ごとの役割定義が曖昧で、昇進・昇格の基準が不透明
③中途採用者の処遇設定が個別対応となり、社内の報酬バランスが崩れている
④評価者研修が未実施で、多くのマネージャーが適切な評価スキルを持っていない
⑤賞与の評価反映方法が不明確で、従業員のモチベーション向上につながっていない
⑥要件が明確化されておらず、計画的な育成・配置ができていない
⑦人事制度の社内周知が不十分で、従業員の理解度が低い
⑧給与テーブルが長期間未更新で、世間との乖離が発生している
恐らく、一つも該当する項目がない組織は存在しないのではないでしょうか。
◆人事制度を構築する上で重要なポイント
いくら人事制度の構築が重要だからといって、ただ作ればよいものではありません。現実に合わない制度は逆に不平・不満を産みます。注意すべきポイントは次の4点です。
①自社の風土や理念を尊重
人事制度コンサル会社は工数の関係で、出来合いのパッケー商品を使いまわします。スタートの段階で、どれだけ自社の風土を理解した提案をしてくれるかが重要です。
②つぎはぎだらけにならない
人事制度は①等級②給与(報酬)③評価の3点がバラバラでは上手く機能しません。出来る限り一気通貫で構築する方が効果的です。
③経営陣・人事・管理職が主体的に取り組む
経営陣だけ、人事だけが構築に関わってもうまく機能しません。経営陣、人事、管理職の三者を巻き込み主体的に構築に取り組むことで、磨きこまれた制度となります。
④落とし込みをしっかり行う
評価者のための研修をしっかり行い、属人的な基準をできる限り排除してください。
◆人事制度を構築したあとは現場の上司の在り方が問われる
人事制度を構築できたとしても、それだけで離職が防止できるわけではありません。ここからは上司(リーダー)の部下と向き合う姿勢が問われます。
①部下への態度、密な声がけ
②目標設定と目標達成に向けてのフォロー
③仕事のやり方を教えるだけではなく、考え方を指導する
④基本を徹底して理解させる
⑤モチベーションを高め、明るい未来を想像させる
⑥責任の所在を明確にし、チャレンジさせる
⑦結果を出したものに対しては報いる
⑧結果が出なくとも、次どのようにすれば良いかアドバイスを行う
いわゆる、リーダーシップ、マネジメントの原理原則です。「仏をつくって魂入れず」に終わることなく、「仏(人事制度)をつくって魂(現場の上司のリーダーシップ)を入れる」ことで、中小企業であってもモチベーション高く、収益力高い組織に変革できます。
【ポイント】
組織に合った人事制度は、社員の不平不満を減少させ、モチベーション向上につながる。期待している若手の離職を防ぐためにも、すぐに制度の構築・見直しに着手せよ。
株式会社経営支援センター チーフコンサルタント 吉田 敬真