部下指導の研修の中で「部下に対して何か不満や悩みはありますか?」という質問をすると多くの上司たちが残念な回答を口にします。「部下の報連相が悪い」です。それは商品が売れないことに対して「買わない客が悪い」と言っているようなもの。「売れない」のであれば「どうすれば買ってくれるか」を考えなければなりません。同様に「報連相をしない」のであれば「どうすれば報連相をするようになるか」を考えるべきです。
何で事前に報告しないんだ!
食品卸売業A社3年目の高田主任。新入社員の田中君の指導に熱が入っています。高田主任「そういえば、ここ1カ月、〇〇スーパーからのこの商品の注文が少なくなっているね。何かあった?先方の部長とは連絡を密に取っている?」田中君「実は、先々月、在庫の関係で発注をしばらく抑えるかもしれない、と言われていました。」高田主任「大事なことはすぐに報告しないと!」田中君「申し訳ありません。高田先輩に報告したいことがある、と二度言いましたが、忙しいので後にしてと言われ、それっきりになっていました。」高田主任「そんなことは関係ない!」田中君に対してそのように述べたものの、自身の対応が間違っていなかったか、思い返しています。
【解説】
報連相は組織内で十分な意思疎通を図るために非常に重要です。「報告」は義務であり、業務の進ちょくや完了を伝えます。「連絡」は気配りで業務上知った事柄を組織の共通認識として浸透させます。「相談」は問題解決で、困った時、解決策をもらい、人間関係を向上させます。報連相を徹底することのデメリットはありません。ではなぜ、部下は報連相をしないのでしょうか。興味深いアンケート結果があります。「なぜ、報連相をしないのですか?」という問いに対する新人・若手社員の回答の上位3点です。
①報連相しにくい雰囲気(忙しそう、機嫌が悪そう)
②報連相をしたところで解決しない、反応がない
③報連相をするとやっかいなことが起きる、怒られる
「人間は感情の動物」です。「正しい、正しくない」よりも「好きか嫌いか」、「楽か面倒か」を優先します。つまり、報連相は必ずすべきもの、というルールよりも報連相をすることによるデメリットを避けたいのです。 そもそも「報連相」という言葉は古い概念ではありません。1986年に「ほうれんそうが会社を強くする」という書籍が発刊され、こぞって研修会社が新入社員研修で取り上げました。その過程で部下から上司への情報伝達に必要なスキルとして広まっていきました。しかしながら、同書の著者、山崎富治氏は、情報伝達の方向が部下から上司へとは一切述べていません。部下から上司、上司から部下、同僚同士、組織を越えて一切の気兼ねなく報連相ができる風土をつくるべき、と説いているのです。では、部下が率先して報連相をするためには何をすれば良いか。それが次の通りです。
1.報連相の重要性を常日頃から口にする
報連相は組織の潤滑油。レスポンス強化、トラブル防止、クレーム対応、上司・先輩の経験値の共有、問題解決などメリットを挙げれば限りないほどある、と日頃から伝える。
2.信頼関係
まずは自己開示。上司から率先して情報を共有しなければ、部下から情報はあがってこない。「尊敬できる上司だから」という信頼関係が構築されてはじめて正論の指導が効果を発揮する。
3.報連相を待つだけでなく、取りに行く
報連相を待つのではなく「あの件の進ちょく教えて」と上司から状況を確認する。そして、リスク管理のためによく観察をする。
4.指示・命令系統の統一
例えば課長が係長を飛び越し一般社員に直接指示をすると、部下は直属の上司を飛び越し、課長に報連相をする。係長は立場がなくなり、部下の報連相に不満を持つ。指示・命令は追い越し禁止。
5.指示出しの段階で求める水準、報告のタイミングを伝える
どのタイミングで中間報告をすればよいか、どのようなことが起きれば相談が必要かを指示する際に伝えておく。
6.笑顔を絶やさない
部下は常に上司の機嫌をうかがっている。報連相しやすい表情、雰囲気をつくり笑顔を絶やさない。
7.部下の報連相にはなるべく作業を止め、向き合う
PCを打ちながら、作業をしながら部下の報連相をきくと、上司は自分の話に興味がないと判断する。もし時間がないのであれば後に時間をつくる。手を止め、顔と体を向けて話しをきく。
8.悪い報告をした部下には「よく報告してくれた」と評価する
悪い報告は「言いにくいのにありがとう」と、報告をしてくれた事実は大いに評価する。その後、ミスの改善を促す指導を行う。
9.ミスは報告しなければ部下の責任。報告すれば上司の責任
責任の所在を明確に宣言。部下のミスは上司としての管理者責任が発生し、自分の責任となることをしっかり伝える。
高田主任は田中君の報連相を待つだけではなく、進ちょく確認をまめに行いました。そして、どんなに忙しくても田中君が話しかけてきた際には手をとめ、時間をつくるようにしました。すると、少しずつ田中君も報連相の重要性を認識し、些細なことであっても自分からの報告や相談が増えていきました。
【ポイント】
部下の報連相に悩む前に己を見つめ直せ。上司は報連相は下からするものという意識を捨て、上からの働きかけも重要と認識せよ。